今、地球温暖化によると考えられるさまざまな影響が、世界の各地から報告され、また予測されています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測では、世界の平均気温が、産業革命前と比較して、1度上昇するだけでも、熱波や大雨、洪水などの異常気象のリスクが高くなるとされ、2度の上昇では、北極海の氷やサンゴ礁など微妙なバランスで成り立つ自然環境が、深刻な危険にさらされると考えられています。さらに3度以上の気温上昇は、生物多様性や世界経済全体に広範囲にわたる影響を及ぼし、4度以上になると穀物の生産量の落ち込みや魚の漁獲量の変化などがあいなって世界的な安全保障にも取り返しのつかない影響が起きる可能性が指摘されています。
こうした予測を踏まえ、現状の国連の温暖化対策の会議では『世界的な気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑えること』を、国際的な共通目標とし、そのために必要とされるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの排出削減が議論されてきました。
世界の平均気温上昇を2度未満に抑えるためには、世界全体の温室効果ガスの排出量を2050年までに2010年比で約40~70%削減する必要があると考えられています。このため、2015年6月にドイツで開催されたG7では、首脳たちこの70%に近い削減への合意を表明すると同時に、21世紀の間に世界経済を現在の石油や石炭などに依存した形から 『脱炭素化』 させることについても合意しました。
しかし、そのなかにあって世界第5位の排出国である日本は、高い技術や経済的な能力を有しているにもかかわらず、過去20年間、大きな排出量の削減が達成できてきませんでした。2015年7月17日、日本政府は 『2030年までに2013年比で26%削減』 という新たな温暖化防止のための目標を発表しましたが、これも2010年比に換算すると、約18%の削減にしかなりません。2030年の国民一人当たりの排出量の見込みでも欧州に及びません。
2015年11月30日からフランス・パリで開催されていたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が、現地時間の12月12日、2020年以降の温暖化対策の国際枠組み『パリ協定』を正式に採択しました。 このパリ協定(ここまでの報告で「パリ合意」と称していたもの)は、京都議定書と同じく、法的拘束力の持つ強い協定として合意されました。初日に150カ国もの首脳たちを集めてスタートしたこの会議は、議長国フランスの巧みな采配もあり、歴史的な国際合意の採択となりました。
国連気候変動枠組条約締約国196のうち、183の国・地域が国別目標案(約束草案)を提出しました。
水色■が提出済、灰色■が未提出
スイス |
2030年までに1990年比で、温室効果ガス排出量を50%削減する。 2025年までには1990年比で、35%の削減が予期される。 |
EU | 1990年比で2030年までに温室効果ガス排出量を国内で少なくとも40%削減する。 |
アメリカ |
2005年比で2025年までに温室効果ガス排出量を26~28%削減する。 28%削減へ向けて最大限の努力をする。 |
中国 |
2005年比で2030年までにGDP当たりのCO2排出量を60~65%削減する。 2030年までに一次エネルギー消費に占める非化石燃料エネルギーの割合を20%に増やす。 2005年比で森林蓄積を45億立方メートル増加させる。 |
ロシア | 2030年までに1990年の70~75%に抑制する(※1990年比で20~25%削減) |
韓国 | BAU比で2030年までに温室効果ガス排出量を37%削減する。 |
シンガポール | 2005年比で2030年までにGDP当たりの温室効果ガス排出量を36%削減する。 |
タイ |
無条件の目標として2030年までに温室効果ガス排出量をBAU比で20%削減。 条件付きの目標として同25%削減。 |
日本 | 2013年比で2030年までに温室効果ガス排出量を26%削減する(2005年比では25.4%削減) |
地球温暖化の影響は地域ごとに異なります。しかし、たくさんの生きものや人々の暮らしが深刻な被害を受ける可能性があることは世界共通です。地球上の各地では、それぞれの地域で様々な影響が現れています。その影響は水資源や農業、衛生への影響、また大雨や洪水などのリスク増加といった様々な形で、自然環境と社会を脅かしています。
「適応」が困難な国々の悲鳴
地球温暖化がもたらす異常気象などの災害に対応する、抵抗力をつけることを 「適応」 といいます。今、世界の各地では様々な場所で、温暖化による被害が多発していますが、これに 「適応」 していけるかどうかは、その国や地域の事情により、状況が異なります。
例えば、経済的に豊かな国の場合、洪水に対応して堤防を造ったり、強化したり、また日照りや日照不足などの異常気象に強い作物を、品種改良して作ったりすることができます。しかし、世界の貧しい国々の多くはそうは行きません。これらの国々では 「適応」 に必要な資金や技術、人材がありません。そのため、温暖化による被害がより深刻なものになっているのです。
また、こうした開発途上国の国々には開発などの脅威に未ださらされていない豊かな自然環境が比較的多く残されているケースが少なくありません。温暖化が進行すれば、これらの自然も様々な被害や影響を受けることになるでしょう。さらに、こうした国々や地域で気候変動により貧困問題が助長されれば、目先の経済的利益を求め、豊かな森や海などが無計画に開発されるおそれもあります。もちろん、先進国の国々にも、温暖化によって苦しんでいる人たちは数多くいます。しかし、貧しい途上国の場合は、このような事情があることに加え、『そもそも温暖化の原因となる二酸化炭素などをほとんど出してこなかった』 ということを、忘れるべきではないでしょう。
地球温暖化に関する科学の知見として、世界で最も信頼と権威のあるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2014年に最新の報告となる第5次評価報告書を発表しました。この報告書が明らかにしたことは、このままの成り行きで気温上昇が4度前後も上昇すれば、取り返しのつかない深刻な影響が予測される、ということです。また、なんとか平均気温の上昇を産業革命前に比べて『2度未満』に抑えることができたとしても、実はかなりの温暖化の悪影響が予測されています。そのため、温暖化の悪影響に備える 「適応」 は、いずれにしても準備しなければならないのです。適応策を準備しておくことで、悪影響はかなりの程度で軽減できることがわかっています。すでにある程度の温暖化の被害は避けられないのですから、今後の温暖化対策は、その原因である 「温室効果ガスの削減」 とともに、予測される 「悪影響への適応」 を同時に行なっていくことが大切です。
近年、日本でも猛暑の日が増加しています。気象庁によると、日本の平均気温は1980年代から上昇を続け、特に1990年に入ってからは観測史上の最高記録をぬりかえる年が続いています。
日本の平均気温は、過去100年間で約1度上昇しました。この気温上昇に起因すると考えられる異常気象の増加や農作物の生育の変化や悪化が、近年多く報告されるようになっています。さくらの開花時期も春先の気温の変化にともなって早まっていることが長年の観測結果から分かっています。年々進む平均気温の上昇は、日本の自然や私たちの生活にも次のような影響を及ぼす可能性が指摘されています。(出典:環境省、気象庁)
●日本に上陸する台風の強大化
●突風、竜巻発生の増加
●夏が長く、冬が短くなる
●植物の生育地域の変化に伴い、生きものの生息地域が変わる
●米を育てられる地域が北へ移り、今までは米を生産できていた地域で生産できなくなる
●マラリアや黄熱病など熱帯地域の病気が上陸する
●標高の低いスキー場では雪が不足し観光客の減少
など
この他にも、すでに影響が指摘されている例として、猛暑による熱中症の増加や、家畜や農作物への被害、また相次ぐ強い台風の襲来や地域的な大雨、洪水などが多発しています。このまま温暖化が進むと100年後には最高気温が30度以上になる真夏日が、現在の倍以上に相当する年間100日を越え、1年の3分の1が夏になる可能性があると予測されています。
地球温暖化が進むと日本の四季もまた大きく変化します。温暖化は、私たちが住む日本にも深刻な影響を与える現象なのです。